関西日本・フィンランド協会 総会

2013515

 

講演「フィンランドのイクメン事情」

ミッコ・コイヴマー氏


近年、日本でよく聞くようになった「イクメン」という言葉。一方、男女平等主義が浸透しているフィンランドでは、男性が子育てに関わるのはごく自然なことのため、「イクメン」を表す言葉がないのだとか。そんなイクメン先進国・フィンランドにおいて、お父さんはどんな風に子育てをしているのでしょう? 日本で育児に奮闘している “母さんライター”江角が、興味深くお話を伺いました。

「こんにちは。初めまして」と颯爽と登場したミッコさん。流ちょうな日本語を話すのは、ヘルシンキ大学で日本に関する研究をしていたことに加え、早稲田大学に1年間留学した経験も持っているから。2010年月から駐日フィンランド大使館に勤務。報道・文化担当参事官として、日々フィンランドの広報活動に取り組んでいます。そして、 4歳の男の子と2歳の女の子を持つ父親でもあるミッコさんは、2年前からは父親としての経験と知識を活かし、「イクメン大使」としても各地で講演活動を行っています。「2011年6月に日本で初めてイクメン事情に関するプレゼンをして以来、依頼はだんだん増えてきました」そうミッコさんが話すように、日本でもイクメンへの期待が高まっていることが伺えます。


イクメン・ミッコさんの日常
フィンランドには、子育てをする親たちに対して、さまざまな国の支援があります。例えば、赤ちゃんが生まれた家族には家庭保育給付金が与えられるほか、男性は、 3週間の育児休暇が取れるなど。ミッコさんも制度を利用し、育児休暇を取得しています。「私は、息子が 1歳のときに2か月間育児休暇をとり、家で子どもの面倒をみていました。子育てはとても楽しいけれど、大変な仕事。経験したことで初めて子育ての大変さが分かりました。同時に、改めて自分の両親への尊敬の念、妻への感謝の気持ちを持ちました。仕事中なら、休憩もとれますし、大人の会話もできる。けれど、子育てに休憩はありません。子どもが昼寝をしてくれたとしても、ソファに座れば目の前には散らかった部屋が広がっていて(笑)…育児休暇を取ったことは、子どもとの絆を深める意味でも、育児のイロハを知るためにも、私にとって、とてもいいスタートとなりました」

ミッコさんは、だいたい午後5時頃には仕事を終え、6時頃には帰宅。ミッコさんだけに限らず、フィンランド人はたいてい、9時〜5時まで8時間働き、仕事が終わると子どもと一緒に過ごす時間があるそう。そして家に帰ると、子どもたちとおもちゃで遊んだり、週に何度かはミッコさんが子どもたちをお風呂に入れたり、寝かしつけをしたり。仕事が早く終われば、それだけ子育てに関わる時間が持てるというわけです。労働環境も、子育てをする親の味方をしてくれていることが分かります。

家では、家事をこなすのを得意とするミッコさんが掃除や洗濯を担当するほか、車の運転や家具の組み立てなどは、それらを得意とする奥さんが担当しているそう。性別ではなく、個人の趣味や能力で役割を分担している点は、とても理にかなっているし、見習いたいところです。


日本におけるイクメンについて
では、日本でも増えつつあるイクメンについて、ミッコさんはどのように感じているのでしょう。「日本でも、週末に子どもたちと一緒に公園へ行くと、お父さんたちの姿をたくさん見かけます。もしかするとお母さんより多いかもしれません。日本のお父さんたちも育児に参加したいという人は多いのではないでしょうか。でもお父さんが夜の9時まで働いていたら、子どもはもう寝てしまう時間です。それはお父さんの態度とは関係なく、日本の社会の働き方にイクメンになりたくてもなれない事情があるように思います」

確かに、日本の会社では長時間働くことが評価されるような一面も残っており、育児休暇や保育給付金など政策の面においても、フィンランドほどサポートが充実しているとはいえません。さらに加えると、日本の風潮はあまり子育てを歓迎していないように私は感じています。例えば、子どもが急に熱を出し、仕事を休む場合。日本では肩身の狭い思いをすることも、ままあります。

「フィンランドでは、子どもが病気の場合、親が仕事を休むのは普通です。それは法律で守られていることです。今はネットワークが広がって、家の中でも仕事ができる環境がありますし、週に1度は家で仕事をする在宅勤務も珍しいことではありません。育児休暇を取ることに関しても、会社から見れば2〜3年働かなかった場合、仕事ができなくなる恐れがあると心配されているようですが、私はそうは思いません。子育てをすれば、人として成長でき、前より優れた人になっていると思います。会社に戻ったら前より効率よく仕事ができるようになっている可能性もあるし、人と接する態度も格段によくなっているかもしれない。技術的なことは、人はまた学ぶことができるので 2〜3年もあればすぐに追いつけるのではないでしょうか。」


日本のイクメン大国への可能性
日本では一世代前、いわゆる団塊の世代の頃の父親像は「外で働いて稼ぐ」ことが全てで、家事・育児には介入しないことが当たり前でした。今は変わりつつありますが、フィンランドにおいて、ミッコさんのお父さんは子育てにどう関わってきたのでしょう。「私の父の時代には、今ほど国の政策、支援は充実していなかったように思います。けれど、父親は家に帰れば母と均等に仕事をシェアしていました」

ミッコさんの著書によると、80年代後半の頃、フィンランドのある有名企業の CEO(最高経営責任者)が「育児休暇をとる男性従業員は、職場に復帰すべきではない(すなわち、解雇されるべき)」と発言したことが紹介してありました。フィンランドでも、わずか20年前ほどにこのような発言をされていたとは驚きですが、それが今ではイクメン大国になっているということもまた事実。今の日本も努力次第では、将来フィンランドのようなイクメン大国になる可能性があるということに期待したい、と大いに胸を膨らませたのでした。


日本のお父さんに伝えたいこと
現在は日本で子育てをしているミッコさん。「日本は、子育てをするのにすばらしい環境だと思います。まずフィンランドと同様に安全な国であること。きれいで過ごしやすいのはとてもいい点だと思います。ただ人はとても多いですね(笑)また日本の子どもたちを見ていると、フィランドの子どもたちより、とてもマナーがいいように思います」

ミッコさんは子どもたちと接するとき、できるだけ子どもに集中したいと考えています。「子どもたちの前ではできるだけ携帯電話で話したり、フェイスブックをしたりすることはやめています。携帯電話のパパ“にはなりたくないですからね(笑)それと、子育てに関して夫婦で大切にしていることは、子どもたちが自分自身を愛せるようにすること。ありのままの自分を受け入れられるよう、自分自身を尊敬できるようになってほしいと願っています」

日本でもフィンランドと変わらず、充実した「子育てライフ」を送っているミッコさん。今、日本のお父さんたちに伝えたいメッセージとは…。

「子どもの小さいときは本当に一瞬。お父さんが子育てに関わらないのは、すごくもったいないことだと思います。もちろんお父さんだけではなく、お母さんも子どもたちとは、なるべく一緒の時間をたくさん過ごしてほしいと思っています。イクメンの数が増えたら、お父さんにとっても人生の質や価値を高めるいい経験になることはもちろん、お母さんにとっても、子どもにとっても利益がある。さらに国家レベルで考えても同じことが言えます。日本にもっともっとイクメンが増えるよう、エールを送ります」

 Topページへ